佐渡島 庸平(コルク代表)の連載:企画のおすそわけ
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佐渡島 庸平(コルク代表)の 企画のおすそわけ

(全20話)
2018年12月03日 佐渡島 庸平(コルク代表)

佐渡島が考えるエンタメ企画をインタビュー形式でおすそわけします。

3日前

物語を魅力的と読者が感じるかは、主人公や登場人物のキャラクター次第。


では、どうすれば魅力的なキャラを描くことができるのでしょうか?


今月は「魅力的なキャラクターをつくる」をテーマに、キャラクターの魅力を引き立たせるために考えたい4つのポイントを紹介します。


3週目となる今回は、「目標を明確にする」についてお届けします。


***


目標や、目標への姿勢で、キャラクターの人柄が伝わる。


(以下、佐渡島さん)


繰り返しになりますが、キャラクターが立つとは、その人物の輪郭が明確になることです。


キャラクターの性格や人柄を読者が理解し、「こういう時。このキャラクターなら、きっとこんな行動をとるんじゃないか?」と、読者が予想できる状態になっていることを目指す必要があります。


そこで、今回紹介するポイントはこちら。


“キャラクターが、どんな目標を立ているのかを明確にしよう”


例えば、宇宙兄弟のムッタであれば、第1話の段階で、30歳を超えても宇宙飛行士の夢を諦めきれなくて、宇宙に行く目標を胸のうちに秘めていることが明確に描かれています。


登場人物をわかりやすく伝えるために、その人物がどんな目標を持っているのかを、早い段階で読者に明確に示してあげることは大切です。


目標や、目標への姿勢で、人物の人柄が読者に伝わります。


ムッタであれば、30歳という年齢になっても宇宙飛行士の夢を秘めていることから、宇宙飛行士への憧れが人並み以上に高いことがわかります。同時に、宇宙飛行士の試験すら受けていない事実や、夢から逃げている言い訳を並べていることから、自分に対して自信を持っていない性格であることもわかります。


また、目標については、宇宙飛行士のような壮大な夢でなくても構いません。


クラスで全く目立たない主人公が、クラスのアイドル的な存在の女の子に声をかけること。パワハラが横行し、残業ばかりの職場にいる主人公が、勇気をだして上司に「今日は定時に帰ります」と申し出ること。どちらも立派な目標です。


まずは、キャラクターをわかりやすく伝えるために、どんな目標を持っている人物なのかを、読者に提示しましょう。



困難に陥った時こそ、その人の本質が現れる


また、長期連載のマンガの場合、連載の途中でキャラクターの魅力をもっと引き出したいと思うことがあります。


そういう時にオススメなふたつのやり方があります。


ひとつは、困難な状況にキャラクターを落とし込むということ。


『宇宙兄弟』でいうと、初めの頃、ヒビトのキャラクターが弱いという課題がありました。物語の序盤でムッタを宇宙飛行士の夢へと引っ張っていくヒビトですが、何事も完璧すぎて、ヒビトがどういう人間なのかわかりづらかった。


そこで、ヒビトが月に滞在している時に、月面の巨大なクレーターに落ちるという大きなトラブルにあえて遭遇させてみました。そこから、ヒビトがどういう風に生還するのかで、ヒビトのキャラクターがわかるだろうと思ったからです。


その後にも、ヒビトには、パニック障害が発生したり、NASAで厳しい処遇に受けたりと、困難が続きます。


しかし、そういった困難に対するヒビトの振る舞い方をみて、ヒビトがどういう人間なのかが明確になってきました。


「苦しい時に支えてくれた人こそ、本当の友達だ」みたいなことをよく言いますが、困難に陥った時こそ、その人の本質が現れると思います。


このキャラクターは、どういう人間なのかを際立たせたいという時には、困難な状況にあえて落とし込むというのは、テクニックのひとつとしてオススメです。


そして、もうひとつは、ライバルを登場させるということです。


困難に落とし込むと考え方は一緒です。存在を脅かすような存在や、「こいつには、負けたくない」と強く思う存在を用意し、ライバルに対する立ち振る舞いで、その人物の人間性が見えてきます。


ライバルを次々と登場させるのは、マンガでよく見られる王道パターンですが、ライバルの登場で主人公の振る舞いに変化があったのかに注目して読むと勉強になると思います。


ライバルの登場で、主人公の人間性が深く理解できるようになったのだとしたら、ライバルの存在は物語において、とても効果的に働いたと言えるでしょう。


是非、キャラクターの魅力を引き出すために、困難な状況を与えることを意識的に試みてください。



聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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10日前

キャラクターが命。キャラがすべて


物語において、必ず言われることです。佐渡島さんも常々、「物語の圧倒的な魅了は登場するキャラによるもの」と言っています。


では、どうすれば、魅力的なキャラを描くことができるのでしょうか


そこで今月は、「魅力的なキャラクターをつくる」をテーマに、欠かせない4つの要素「主人公のリアクション」、「周囲からのリアクション」、「ライバル」、「欠点」について具体的に解説します。


今月の内容は実のところ、そのまま自己分析の方法論でもあります。どうすれば自身のtwitterで個を際立たせていけるのか。リアル社会も含めて、キャラづくりへの理解を深めていきます。


2週目となる今回は、キャラを魅力的にするための「周囲からのリアクション」についてお届けします。


***


本人のセリフだけではキャラは濃くならない


(以下、佐渡島さん)

今回は、「周囲からのリアクション」について。


キャラクターが立つとは、人としての輪郭が明確になることです。


明確にするための1つの方法が、輪郭の線をはっきりと太くする「本人を濃くする(=主人公のリアクション)」と前回説明しました。その対になるのが、「その人物の周囲を塗る」手法です。周りの人のリアクション(反応)によって、その人物がどんな性格か浮かび上がらせます


例えば、サッカーがものすごくうまい高校生を主人公にしたマンガを描いたとします。ストーリーの1コマ目で、「オレは、日本一サッカーがうまい高校生だ!」と本人に言わせたら、キャラは立つのでしょうか?


立ちません。こういった指摘を新人マンガ家にすると、「本人が日本一と言っているんだから、キャラが立っていますよね?」と不思議そうな顔をします。僕は、「本人が言っているだけで本当に信用できるの?」と返します。


読者は本人の言葉だけでは、この少年が本当のことを言っているのか、ただの妄想狂なのか判断できませんよね。


本当にサッカーがうまいのかどうかは、周囲のリアクションで説明できます。例えば、主人公の少年がグラウンドでサッカーをしていた。そこに偶然、日本サッカー協会の理事長が車で通りかかり、「ちょっと車を止めてくれ。あの子は誰だ!?」と驚嘆したとします。


サッカー協会の(サッカーに詳しいであろう)人間の言葉を受け取った読者は、「ずば抜けてサッカーがうまい少年なのだな!」と受け取りますよね。主人公のアクションに対する周囲のリアクションは、客観性を備えています。


人気マンガに2次創作物がたくさん生まれるワケ


「周囲のリアクション」は、「周囲との関係値」ともいえます。


物語とは、はじめから終わりまで登場人物が1人で面白いものはありません。物語の面白さは、主人公をはじめそれぞれの登場人物が、いろんな出来事や人とどういう関係値を結ぶかにかかっています。


例えば、アイドルグループ嵐。5人の関係値に、ものすごい興味があるわけですよね。


解散を控えた嵐が仮に、5人全員で「おつかれさま旅行」をした、とします。旅行の様子は、最初から最後まで隠し撮りされていたとします。


我々はその映像で何を見たいのか。5人がどこへ行ったか。何を見てどんな食事をしたのかではありません。圧倒的に知りたいのは、5人それぞれがどんな話をしたか。5人の関係性はどういうものだったのかではないでしょうか。


彼らの関係値はすでに多くの関心があるから、嵐はもはや何をしたって面白いともいえます。


人気マンガ作品に2次創作が起こるのも、同じ理屈です。


『SLAM DANK』の桜木花道と流川楓が同じオフィスで働いていたら? 製造部と営業部にいたら? そんな2次創作物が支持されるのは、ライバルである桜木と流川の関係値が共通認識としてあるから。2人の関係値自体は予想可能ななかで、舞台や時代、年齢など状況を変えて再生産したら、2人はどんな風にしゃべり、ぶつかるのか。読み手はそれを楽しむのです。


関係値を描こうと人物同士のエピソードを描くことで、自然と個々のキャラも立ちます。一方で、登場人物一人ひとりのキャラが明確に立っているから関係値が面白くなることもあります


「関係値を描くこと(周囲とのリアクション)」と「主人公のリアクション(本人のアクション&リアクション)」は、卵が先かニワトリが先かのような関係。両方を丁寧に描くことが必要なのです。


(翌週へ、続く)

聞き手・構成/平山ゆりの @hirayuri&コルクラボライターチーム


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16日前

キャラクターが命。キャラが物語のすべて。


マンガを描くときはもちろん、映画でもドラマでも、必ず語られることです。佐渡島さんも常々、「物語の圧倒的な魅了は登場するキャラによるもの」と言っています。


では、どうすれば、魅力的なキャラを描くことができるのでしょうか。


キャラが立っているとは、その人物がどんな人かを瞬間的に記憶できることだと、佐渡島さんは言います。


そのためには、「主人公のリアクション」、「周囲のリアクション」、「ライバル」、「欠点」の4つの要素を総合的に考えてキャラづくりをしていく必要があるとも。


そこで、今月は、「魅力的なキャラクターをつくる」をテーマに、その欠かせない4つの要素について具体的に解説します。


この内容は実のところ、そのまま自己分析の方法論でもあります。どうすれば自身のtwitterで個を際立たせていけるのか。リアル社会も含めて、キャラづくりへの理解を深めていきます。


1週目となる今回は、「好きになるキャラとは何か」。そのために必要なひとつ目、「主人公のリアクション」についてお届けします。


好きになるキャラは「先の行動を予想できる人」

(以下、佐渡島さん)

キャラを立てようとすると、新人マンガ家は子どもっぽいマンガ的演出をしたり、おおげさに描いたり、突飛な行動を繰り返すなど“変な人”にしてしまいがち。このやり方は、基本的には間違っています。


物語を通じてそのキャラを好きになっていくわけですが、変な人は簡単に好きになれません。変な人の言動はなかなか理解できないからです。「気持ちがよくわかる人」だから、好きになれる。本当に描くべきは、「常識外れでエッジが効いているのだけれど、本質を突いている人」です。


そのうえで、その人のことを瞬間的に知って記憶できること。これこそが、キャラが立っているといえます。


物語というのは、裏切られると楽しい。


『物語設定の“型”を理解する』でも説明しましたが、読み手が裏切られるためには、「次はこういう風なストーリーになるだろう」との予想が頭の中で成り立っている必要があります。


サスペンスの場合はあらすじで裏切るのに対し、「この人なら次こうするだろう」と“人”によって予想できることがキャラが立っているということ。「キャラで(先を)予想させる」ことが超重要なんですね。


というのは、「予想する行為」と「応援する行為」のために起きていることが似ているから。


物語の序盤、読み手の予想の仕方は、(この主人公、このあと負けるんだろうな~)などと大雑把です。それが何度も予想が繰り返されることで、(負けるかもしれないけれど勝ってほしい)(圧倒的に勝ってほしい)などと予想のあり方が具体的になっていきます


すると自然に、予想行為そのものが「応援している」形になる。キャラを応援するとは、物語を通じてその人を好きになっていることですよね。


AKB48グループのファンも、「予想→応援」の流れで拡大した例です。


そこで大きな役割を果たすのが、「総選挙」。


選挙において、投票する側や見ている側は自然と予想します。予想の内容を誰かに語る場合、「○○が当選すると思う。なぜなら……」と、その理由を自然と説明しますよね。


「この子が選抜メンバーになるよ。こういう魅力があるから!」「この子はこういうところがすごい!」と説明するうちにその子のことが好きになっていく


選挙自体は完全な物語ではないのだけれど、選挙を見ている側は個々のストーリーを自由に作っています。選挙は、インタラクティブな物語を生む仕組みとして最強なんです。


そんな風に「その人物によって先の展開が予想できる」ためには、キャラを際立たせることが欠かせません。キャラが立つとは、その人物の輪郭が明確になること。その方法を知って意識的に描くだけで、物語はずっと面白くなります。


言動を受けての反応(リアクション)がキャラを立たせる

(佐渡島さん)

キャラを魅力的にするためのひとつ目は、「主人公のリアクション」です。


主人公がある行動をします。そして、その行動や周囲の出来事に対して、リアクション(反応)をする。このときのリアクションがどういうものかで、キャラがわかります。


たとえば、主人公が会議に5分遅刻してきたとします。


あるキャラは、遅刻行為に対して、顔面蒼白でこんな風に謝りました。


「本当に申し訳ない!皆さんの時間を1人5分ずつ無駄にしてしまった。僕はなんてことをしてしまったんだ…」


このリアクションから、このキャラは普段遅刻をしない人だとわかりますよね。


一方、別のキャラはこう言いました。「今日は早かったな。興味がある内容だったらそんなに遅れないんだな」。


このリアクションから、その人はしょっちゅう遅刻することが読み取れます。


行為に対して、その人物がどんな風にリアクションするか。そににその人の資質がものすごく表れます。


遅刻することは、世間の常識では「悪」とされていますよね。新人の多くは、ある出来事に対して常識的な反応をさせがち。一般常識のまま、「遅刻した状況を描く」→「謝る」という行動をさせても、キャラは一切表れてきません。


同様に「浮気」。浮気する=「悪」と単純に描いてもキャラは立ちません。


浮気しているときの罪悪感の抱き方、浮気相手の女性への連絡の取り方……。そこにキャラが出ます。


「そんな浮気の方法があるのか!」と驚いた話があります。


ある男性は、30人の女性と同時に付き合っています。その付き合い方は、30人の女性に対して、常に同じLINEの内容を送るというもの。会話はほとんど交わしません。相手の返信を読む時間なんてないから自分の伝えたいことだけを送信し、「へぇ~そうなんだ!」などと30人に似たような返信をする。


そんな関係性を続け、自分が寂しくなったら「今夜空いている?」と順々に声をかけていく。そして、その夜空いている女性と一緒に過ごします。この流れを延々と繰り返していると教えてくれました。


この戦法に、男性のキャラがめちゃくちゃ出ていますよね。


出来事に対して常識的反応をさせている限り、キャラは立たないのです。


どんな出来事でもキャラは出せます。誰でも経験する「朝食」においても。何を食べようかというとき、コンビニに買いに行こう! それもセブンイレブンがいい人と、自分でごはんを炊く人。違いますよね。


前日の夜から用意する人ならば、そのシーン単体だけでなく「この人物は、何においてもすごく準備して望むのかな」と何事かを予想させることもできます。


すべてのシーン、すべての登場人物にしっかりリアクションさせていく。それによって、魅力的なキャラに育つわけです。


今回の話をより深く学ぶには、『マンガでわかる 本気で売れるためのヒロユキ流マンガ術』がオススメです。「主人公のアクション&リアクション」を軸にキャラを立たせることを徹底して教えてくれています。


(翌週へ、続く)


聞き手・構成/平山ゆりの&コルクラボライターチーム

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24日前

どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?


この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。


「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」


今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます


最終週となる今回は、定番の型のひとつである「ファンタジーもの」についてです。


***


最もマンガ家としての技量と気力が問われる型

(以下、佐渡島さん)


最終週の今回は、作品をつくるのが最も難しい型について話をします。


それは、ファンタジーものです。


ドラゴンボール、ワンピース、ナルト。異世界を扱う作品はマンガとして定番中の定番ですが、ファンタジーものはマンガ家の技量が最も問われます。


なぜなら、ファンタジーものを創作するには、物語の舞台となる世界をとても丁寧に作り込む必要があるからです。


その世界には、どんな種族がいて、どんな生き物がいるのか?

それぞれ、どんな肉体をして、どのような服を着ているのか?

どんな倫理観があって、善悪の判断はどうなっているのか?


マンガ家は、その世界の住人のように、全て詳しく話せるようにならないといけません。


宇宙兄弟の作者である小山さんも、ムッタたちが住んでいる近未来の世界が頭の中にアナザーワールドとして存在していて、まるで見てきたかのように話します。


そして、ファンタジーものであれば、僕たちがいる現実世界から一層遠く離れたアナザーワールドを構築しないといけません。


マンガ家は、自分が創造したアナザーワールドに読者を連れていくわけですが、そこが支離滅裂な世界になっていると、読者は混乱に陥ります。設定に矛盾を感じたり、先の展開が全く予想できないほど何でもアリになってしまうと、読者は物語についていけません。


そういったルールづくりも含めて、ファンタジーものは世界観の作り込みがものすごく重要なのです。


それが完成した後、やっと、どんな物語を描くのかという企画に入っていきます。ファンタジーの世界の中で、バディものを描くこともあれば、サスペンスをやるという選択肢もあります。


このように、他の型と比べて、ファンタジーものは創作することが本当に大変で、作家の技量と「描きたい」という気力が一番試される型なんです。


ただ、それでもファンタジーに挑戦する価値はあります。


その理由は、国境の壁を超えて、世界で親しまれる物語になりやすいからです。


ドラゴンボール、ナルトなど、海外で人気のある日本の作品は、ほとんどがファンタジーものです。ファンタジーは、その世界が緻密に設計されていれば、世界中の人が楽しむことができます。文化の差を超えやすい物語です。


そのため、マンガ家としての技量が上がってきたら、ファンタジーものに挑戦するというのは、とても価値ある挑戦だと僕は思います。その挑戦に備えて、今から頭の中でアナザーワールドの構築を始めるのもいいかもしれません。


世界中の人々を魅力的な世界に誘うファンタジー作品の登場を楽しみにしています。


様々な作品に触れて、型に対する理解を深めよう

(以下、佐渡島さん)


今月は、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、バディもの、タイムスリップもの、サスペンスもの、ファンタジーもの、それぞれの型のポイントを話してきました。


最初の週にも伝えましたが、物語の魅力を大きく左右するポイントは、登場するキャラクターやエピソードです。


物語を創作するという長い歴史の中で、「こういう設定にすると、人間の心は動きやすい」という定番の型は既に出来上がっています。


新人のうちはベタでもいいから定番の型を使い、キャラクターやエピソードを磨くことに時間をかけたほうがいいと僕は思います。


定番の型の上に、オリジナリティのあるキャラクターやエピソードを重ねていくことで、型破りと呼ばれる作品に仕上がっていくのだと思います。


是非、世の中にある素晴らしいマンガや映画にどんどん触れて、物語の型に対する理解を深めていってください


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide&コルクラボライターチーム

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03月19日

どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?


この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。


「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」


今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます


3週目となる今回は、定番の型のひとつである「サスペンスもの」についてです。


***


サスペンスの要素を加えると、作品離れを防げる?


(以下、佐渡島さん)


今回、理解を深めたい定番の型は「サスペンスもの」です。


サスペンスとは、観客の心を宙吊りにするという意味です。読者に謎を提示し、その答えがわからない宙吊りの状態のまま物語が進行していきます。


謎に惹かれた読者は、答えを求めて作品をどんどん読み進めます。読者を宙吊りにすることによって、作品離れが起こりづらくするというのが、サスペンスの特徴のひとつです。


現在は、世の中で流通しているエンタメコンテンツが膨大にあり、読者の気持ちが移ろいやすい時代です。そのため、作品離れを防ぐ意味でも、様々なジャンルでサスペンスの要素が取り入れられているように見えます。


そんなサスペンスものの大前提として気をつけたいことは、余分な情報を作中に入れ過ぎないということです。


サスペンスを読む際、読者は作品に描かれている全ての情報が、謎を解くヒントや先の展開への伏線になっているかもしれないと思って読んでいます。


そのため、情報量が多すぎると、読者にかかる記憶の負荷が大きくなりすぎてしまう可能性があります。


この描写が魅力的だから描きたいと思ったとしても、謎解きに関係ないものであれば、多くを描き過ぎないことが大切です。



その謎は、読者が答えを知りたいと思うのだろうか?


(以下、佐渡島さん)


そして、サスペンスものの最大のポイントは、謎がどれだけ読者の興味を惹きつけられるかです。


例えば、作中で殺人が起きたからといって、読者にとって全く知らない人物の殺人事件では、読者が興味を持つことは難しいでしょう。物語の冒頭に、死体があったと言われても、それだけで話に関心を寄せることはできません。


サスペンスでは、謎解きのトリックが重要だと思われがちですが、「この謎の答えを知りたい」という謎への興味喚起が一番重要なのです。


宇宙兄弟のシーンを例に、説明しましょう。


JAXAの宇宙飛行士選抜試験において、閉鎖環境の施設内で、福田さんという登場人物が、試験において重要なアイテムであった時計を、他のメンバーには内緒で壊す場面があります。そして、福田さんが壊したことを主人公のムッタと読者だけが知っています。


ここで読者に提示した謎は「なぜ、福田さんは時計を壊したのか?」です。


この時、福田さんが犯人だと読者には伝えず、「閉鎖環境の施設内にいる5人のうち、時計を壊した犯人は誰か?」という犯人探しの謎解きにすることも、物語の演出としては可能です。


ですが、福田さんのキャラクターとしての魅力が既に作中に描かれていたので、「今回の試験に必死な想いを持っている福田さんが、なぜこんなことをしでかしたのか?」という謎のほうが、読者の興味を強く惹くだろうと思ったのです。


このように、謎を提示するにしても、謎の見せ方・演出次第で、読者の興味が全く変わってきます。


この謎は、読者の興味を強く惹くことができるのか?

どういう風に演出すると、答えが知りたくなる謎として読者に映るのか?


サスペンスを考える際には、この問いを常に頭の中で繰り返しながら、企画を立てていくことが大切です。


(翌週へ、続く)


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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03月12日

どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?


この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。


「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」


今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます。


2週目となる今回は、定番の型のひとつである「タイムスリップもの」についてです。


***


タイムスリップものと、スーパーパワーものは双子?


(以下、佐渡島さん)


今回、理解を深めたい定番の型は「タイムスリップもの」です。


主人公が過去の時代にタイムスリップする物語の型で、『JIN』、『ジパング』、『信長協奏曲』など、数多くの作品がこれまで誕生しています。


タイムスリップものは、主人公がスーパーパワー(超能力)を得る物語と、構造は基本同じです。


主人公が過去の時代に行くことで、周りがパワーを持っていない状態になり、持っている能力が際立つのがタイムスリップものです。『JIN』はその典型で、主人公だけが文明や知識を持っている。それにより、周囲から特別な存在だと見られます。


一方、スーパーパワーものは、周りの能力に変化はありませんが、主人公だけ何か特殊な能力を追加で得ることで、特別な存在となります。


ただ、タイムスリップの方が型の形が明確です。物語の前半にタイムスリップが発動し、主人公の存在により歴史を変えるかもしれない出来事が起こり、物語が帰結する。


また、スーパーパワーとなる能力の説明もいらないので、主人公が特別な存在であることが読者に理解されやすい


タイムスリップものと、スーパーパワーものは、双子のような関係の物語の構造になっていますが、タイムスリップの方が型として使いやすいかもしれません。


物語の法則を働かせるために、重要なこと。


(佐渡島さん)


タイムスリップものをやる時に、絶対に意識しないといけないことがひとつあります。


それは、「物語の中で、大きな嘘はひとつだけ」ということです。


面白い物語とは、読者が先の展開の予測ができる物語です。


「主人公は、このままだと、こうなるんじゃないか?」と予測をしながら読んでいるから、その予測を超えたり、予測を良い意味で裏切られたりするときに、面白みを読者は感じます。予測ができない限り、物語は絶対に面白くなりません。


そうした時に、タイムスリップという非現実的な出来事が起こる世界だからといって、何でもありにしてしまうと、読者は先の展開が予測できなくなってしまいます。


タイムスリップという大きな嘘(フィクション)を使ったなら、それ以外は嘘をつかずに、徹底的に現実に即した方が良い。そうすることで、物語の法則が働きます。


例えば、『JIN』でも、主人公が幕末にタイムスリップ以外に、すごい特別な能力を追加で得ることはありません。あくまで現代医療の範疇で、患者と向き合います。


『ジパング』でも、面白さを際立たせているのが、艦隊の大砲の数などがシビアに設定されていることです。制約のなかで、どうやりくりをするかが物語に深みを与えています。これが、未来とどこかで繋がっていて、大砲が打ち放題だったり、未来から援軍が呼べるような設定が入ったら、全然面白くなくなってしまう。


これは、タイムスリップものだけでなく、スーパーパワーものでも同様です。


物語の法則を働かせるために、大きな嘘はひとつだけにする。これがとても重要です。


(翌週へ、続く)


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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03月05日

どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?


漫画家はもちろん、企画に関わる多くの人が持つ悩みではないでしょうか。


この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。


「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」


物語には、様々な定番の型があります。バディもの(相棒もの)、タイムスリップもの、サスペンスもの、成長もの、ロードムービーもの、ファンタジーもの。


そこで、今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます。


1週目となる今回は、「型を理解することの大切さ」と、定番の型のひとつである「バディもの」についてお届けします。


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物語の魅力を大きく左右するものとは?


(以下、佐渡島さん)


今月のテーマは「物語設定の定番の型を深く理解する」です。


僕は新人漫画家を育ているときに、「世の中にある素晴らしいマンガや映画にどんどん触れて、そこから学ぼう」とよく話します。


その際に、特に意識して見て欲しいのは物語設定の型なんです。


設定には幾つか定番の型があります。バディもの、タイムスリップもの、サスペンスもの。様々な作品を見ることで、「今回の物語は、この型を使っているな」と見分けることができるようになります。


同時に、型についての理解を深めていくと、物語の魅力を大きく左右するポイントは、登場するキャラクターやエピソード次第ということもわかってくるはずです。


物語を創作するという長い歴史の中で、「こういう設定にすると、人間の心は動きやすい」という定番の型は既に出来上がっています。新人のうちはベタでもいいから定番の型を使い、キャラクターやエピソードを磨くことに時間をかけたほうがいいと僕は思います。


なぜかというと、キャラクターやエピソードは、他の作品を絶対に真似してはいけない部分だからです。ここを真似すると作品から個性が失われます。自分の体験や過去の感情など、作家の経験の中から生まれたキャラクターこそが、その作家らしいキャラクターになるからです。


定番の型の上に、オリジナリティのあるキャラクターやエピソードを重ねていく。そうすることで、型破りと呼ばれる作品に仕上がっていくのだと思います。


そのために、物語設定の定番の型を深く理解するということは、とても大切なのです。


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関係をどう深めていくのかは、誰しもが知りたいこと。


(佐渡島さん)


理解を深めたい、ひとつ目の定番の型は「バディもの(相棒もの)」です。


教える側と教えられる側のふたりを中心に物語が進行します。困難に立ち向かう中で、ふたりの関係が時には逆転。そして最後は友情で固く結ばれる。これがよくあるバディもののパターンです。


刑事やスポーツ選手といった職業設定。大きな年齢差や真反対の性格といった条件設定。様々なバディのバリエーションがあり、多くの人に親しまれている物語の型がバディものです。


最初はバラバラだったふたりが、最後はアイコンタクトだけでお互いの意思疎通ができる間柄となる。そんな姿を見て、どこか羨ましいと思ってしまう。おそらく、「心が通じ合える親友が欲しい」ということが、人類共通の欲望なのでしょう。


「相手との関係値をどういう風に深めていくのか?」というのは、常に人間が関心を持つテーマです。バディものという型を使いつつ、ふたりの関係をどういう風に深めていくのかの演出により、作品にオリジナリティが生まれます


例えば、宇宙兄弟はムッタとヒビトのバディものですが、ムッタとケンジのバディの要素も含まれています。


ケンジは、初めて会った相手の年齢を当てるのが得意で、当てた相手と握手をする習慣を持っています。ムッタとも、それがキッカケで仲良くなり、ふたりは会えば必ず握手をするようになります。読者は、はじめは握手に特に意味を感じないと思います。ですが、ふたりの関係にとって最大の困難が訪れるエピソードにおいて、握手がふたりの友情を表す象徴的な意味を帯びるシーンが描かれます。それまでの関係を見てきた読者からすると、心が震える演出だったはずです。


相棒ものというと、似たようなものばかりなのではないかと思う人は、『月刊モーニングtwo』の創刊号を手に入れてみると勉強になるかもしれません。なぜなら、編集長が「創刊号に掲載するマンガは、全てバディものにして欲しい」と、漫画家にお願いしたからです。


その中の作品の一つが、『聖☆おにいさん』です。


作者の中村光さんは、バディものというお題を与えられた中で、キリストとブッダの共同生活という企画を考え出しました。『聖☆おにいさん』を読んで、これがバディものだと気づく人は、なかなかいないかもしれません。


でも、本当に優れたアイデアというのは、完全に型にはまっているのに、それに触れた人が型にはまっているのに気づかない。だから、聖おにいさんは型通りとも言えるし、型破りとも言えると思っています。


クリエイターとして、こういった作品を生み出すことを目指していきたいですよね。


(翌週へ、続く)


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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02月26日

現在あらゆる仕事において、人をワクワクさせる『企画力』というものが求められています。


この連載では、コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきたマンガの企画を紹介しながら、ヒットする企画の考え方を同時に伝授していきます。


2月は『他メディア展開から、企画の強度を磨く』をテーマに、企画の磨き方について話をしていきした。


面白いマンガのネタを思いついたとしても、登場人物、舞台設定、展開方法など、企画の味つけとしてアイデアを膨らませない限り、ヒットは生まれません。


最終週の今回は、キャラクターグッズで成功しているキャラクターが持つ3つのポイントから、企画の磨き方を紹介します。


・・・


名前の響きだけで、イメージが伝わるか?


佐渡島:今週は、キャラクターグッズとして成功するために必要なポイントを抑えることの大切さを伝えたいと思います。


初歩的なことから言うと、グッズとして多くの人の手に届くためには、キャラクターの名前の響きがまず重要です。


キティちゃん。ミッキー。リラックマ。ぐでたま。


全て音がいい。その名前を耳にしただけで、キャラクターとしての強さを感じます。


同時に、音を聞いただけで、そのキャラクターの持っている雰囲気が連想できるようにしたいです。


例えば、宇宙兄弟のムッタやヒビト。


ムッタは南波家の長男なのに、六太(ムッタ)です。これは「愛嬌はあるけど、あまりかっこいい奴ではないだろう」という名前を懸命に探した結果生まれました。そして、弟のヒビトはムッタと比べると、シュッとした響きです。


「ムッタとヒビトという音を並べてみた時に、それだけで二人の関係が読者に伝わるようにしたかった」と小山さんは言っています。


キャラクターの名前を考えたら、自分で声にして音を確かめる。そして、周りの人にどんな印象を持ったかを聞いてみる。


まずは、音の響きを徹底的に磨いてみてください。


シルエットとキーカラーが企画の幅を左右する。


佐渡島:また、グッズ展開において、シルエットのデザインが大事だと僕は考えています。


ミッキー。キティちゃん。ドラえもん。コナン。ドラゴンボール。


これらのキャラクターは、そのシルエットを見ただけで、キャラクターを認識できます。


円が三つ重なる形を見た瞬間に、誰が見てもミッキーだと認識できてます。空を眺めてる時ですら、その形の雲をみると、「あの雲、ミッキーに似てるなぁ」と思いますよね。


シルエットが強くなると、グッズ展開の幅が一気に広がります。デザインが圧倒的にしやすくなるからです。


例えば、Tシャツを作るにしても、漫画家が描いている絵をそのまま使うとなると、デザインに制約が生まれます。どうしても、絵の主張が強くなってしまう。一方、シルエットだけでキャラクターが伝わるのであれば、クールな表現、シンプルな表現など、様々なアレンジが可能となります。


リアリティ寄りの作品だと少し難しいかもしれませんが、それでも、宇宙兄弟ではムッタとヒビトの二人が揃っていればシルエットだけで伝わるデザインにしています。


そして、シルエットのデザインを磨いたら、作品のキーカラーも考えてみてください。


紫と白と緑といえば、エヴァンゲリオン。

オレンジと黒と赤といえば、ドラゴンボール。

青、赤、白といえば、ドラえもん。


強い作品は、色の組み合わせを見ただけで、作品が伝わります。


以前、エヴァンゲリオンの新幹線がありましたが、この企画は色の力が強いから成立しているわけです。このようにキーカラーで作品を伝えることができると、様々な企画が可能になります。


シルエットとキーカラー。


キャラクターをデザインする際には、この2つを意識してみてください。このデザインの差が、グッズ展開における企画の幅を大きく左右するはずです。


・・・


さいごに:真のクリエーターになるために。


佐渡島:今月は『他メディア展開から、企画の強度を磨く』をテーマに、企画の磨き方について話をしましたが、最後に大切なことを伝えたいと思います。


それは、他メディア展開について考るなかで、自分が向き合っているメディアでしかできない表現とは何かを考えて欲しいと言うことです。


真のクリエーターとは、自分が表現の場として選んでいるメディアのことを、誰よりも深く理解している人なのではないかと僕は考えています。


漫画家であれば、他のメディアのことも全てわかった上で、「じゃあ、マンガにしかできない表現とは何か?」という問いに対する自分の答えを持っている人こそ、マンガ文化を先に進めることができるだろうし、圧倒的な支持を得るでしょう。


そのメディアにしかできない表現への答えは多種多様であってもいい。ただ、クリエーターであれば、きちんと自分の言葉で語れるようになって欲しい。


だから、クリエーターを目指している人であれば、ある作品が他メディア展開をされていたら、全部を見比べて、それぞれのメディアごとの特徴を考えることが、勉強としてすごく重要だと思います。


自分が向き合っているメディアでしかできない表現とは何か?


その答えを見つけて、イノベーションを生む作品を世の中に送りだして欲しいと思います。


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム。

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02月19日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた大ヒットを狙えるかもしれないマンガの企画を紹介しながら、アイデアを練る際の考え方も同時に伝授する連載「佐渡島庸平 presents 企画のおすそ分け」

2月は、0から1を生み出す企画の立て方ではなく、1を10にするための企画の磨き方についてお届けしています。テーマは、『他メディア展開から、企画の強度を磨く』です。


第1週の「小説」、第2週の「ゲーム」に続き、今週は「舞台・ドラマ、映画化」の企画の磨き方を考えてみましょう。


・・・


リアリティのあるキャラクターとは?


「舞台・ドラマ、映画化」するって考えたときに、漫画家の人が頭の中でキャラクターを作っていくから、リアリティを欠いちゃうことがよくあります。


だからリアリティを欠かないように、過去の記憶をもとに、知り合いを変形させたり、自分を変形させたりして、キャラクターを作ったほうがいいよってアドバイスをしています。


あと、もうひとつの方法としては、現実にいる人の顔を使ってみて、その顔から性格を類推するやりかた。


新人漫画家であればあるほど、顔を軽視しています。顔と性格って、分かち難く結びついていて、関連しています。


だから、ぽっちゃりしているけどヒステリーなキャラクターだと説明がいる。ガリガリで骨ばっていてヒステリーだと、わかるわってなります。


青白い感じで、「実はメンヘラなところがあって」だと、「そうだよね」となるけど、すごく血色のいい人が、「実は俺、メンヘラなんだ」と言っても、「いやいや(笑)」みたいになったりする。顎の形、頭蓋骨の形、体型とかは、性格と連動しています。


新人だと作者が描きたい性格の表情だけでなく、体型、髪型、着る服とか、全部を想像する力って意外とまだないので、「この芸能人がこの人だったら、どうだろう?」って、やってみるといいです。


映画にはキャスティングプロデューサーという人がいて、どの役に誰をキャスティングするのかだけでも、すごい才能です。


だから、自分の作品は絶対に映像化されると思って、全部リアルな人だけでキャスティングしてみるのはすごく重要。


宇宙兄弟なんかは、実際のその人の性格とは違うと思うけど、明らかにその人っていう、小山さんの大好きな人たちが、いろいろとでてきます。くるりのボーカルの人とか、ラーメンズの人とか。


そのキャラクターにくるりらしさとか、ラーメンズらしさというのは残っていないんだけれども、その顔や雰囲気から想像する、丁寧さや細かさとかは、引き継がれていたりします。


第一話のポスターを作ってみよう!


あと、本と比べると、映像化ってすっごくお金がかかる。たくさんの人が巻き込まれます。本の場合は、作者が描きたいと思えばOKなんですが、映像化しようと思うと色んな人を説得する必要があります。


作品が売れてるからだけではしんどくて、映像化って聞いた瞬間に、なんらかの魅力みたいなものが感じられるかが、世界でも成功できるかどうかになってきます。


だから、自分の作品を一話書いたら、その一話のポスターを作ってみる。主人公を配置して、コピーを入れてみて、タイトルを入れてみる。そのポスターを見て、自分が観に行きたいと思うかどうかですね。


僕は地味な話を描きたい、人間味のある話を描きたいから、ハリウッドみたいな大味なのはやりたくないと言いながらも、自分のつくった一話目のポスターを見てみたら、「こりゃ、誰も行かないなぁ」と自分でも思うことは、すごくある。


人は言い訳がすごく上手い。本当は一瞬で魅了させられる物語が、思いつかないだけなのに、自分は地味な話が描きたいと、心底思っちゃっている人がすごくいます。


その人も本当は、派手な人を魅了する話を書きたくて、それを努力するために、新人として僕のところに会いにきたりしているはずだから。

地味な話が好きなんですって、自分の好きがわかっていると思っている人は、嘘をついている可能性があります。


例えば、小津安二郎の映画は、ポスターの構図から、なんとも言えない郷愁とか哀愁みたいなものが漂ってきていて、それを観たいと思わせる鋭さが実はあるんですよ。


だから、落ち着いた物語は存在する思うけれども、落ち着いた物語にも、すごい切れ味がどこかに潜んでいないとダメ。


そのためには俳優をリアルな人であててみる。そして、ポスターを作ってみるのは一個の手ですよね。


あと、映画とかドラマだと、リッチな背景を作り込むことができるけれども、舞台化だとリッチな背景を作り込むことはできません。


それでも、面白さが伝わることを考えると、瞬間的にシーンが変わったとわかる、記号みたいなものが必要。


キャラクターのことばかり考えていると忘れがちだけど、物語を作ってる時に、そのキャラクターたちが、どこで演技をすると面白いのかな?どこで演技をするとこの台詞が際立つのかな?って考えた方がいい。


崖の上で話しているのか?家の中で話しているのか?レストランで話しているのか?全部まったく同じ台詞でも、その三箇所だと、読者の受け取る印象って変わるはずです。


そこまで考えたほうがいいし、あとはやっぱり、自分のつくった台詞を役者が演じてくれる時に、本当に感情を込めれて喋れるのか?


「あっ、あなたはお父さんを亡くしてしまった◯◯さんですね!」みたいな台詞って、絶対に役者は気持ちを込められない。


新人の場合、まず自分の物語の設定をわかってくれない限り、物語がはじめられないと思っていて、各キャラクターに設定を言わせることを雑にやらせすぎています。


それは映像化した時に、俳優が監督に「この人、これをどんな気持ちで言っているんですか?」って聞いちゃうなっていう感じ。


だから、絶対自分で原稿を書いたら、それを自分で朗読しないとダメ。朗読した時に、感情を入れられているかどうかを確認して、役者が監督に聞かなくていいようなチェックをすることが、すごく重要です。


聞き手・構成 / 頼母木俊輔 @MOGGYSBOOKS & コルクラボライターチーム

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02月12日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた大ヒットを狙えるかもしれないマンガの企画を紹介しながら、アイデアを練る際の考え方も同時に伝授する連載「佐渡島庸平 presents 企画のおすそ分け」。


2月は、0から1を生み出す企画の立て方ではなく、1を10にするための企画の磨き方についてお届けしています。テーマは、『他メディア展開から、企画の強度を磨く』です。


第1週の小説に続き、第2週は「ゲーム」への展開から企画の磨き方を考えてみましょう。


・・・


「楽しめるゲームの型」は「おもしろい物語に必要な型」でもある


佐渡島:マンガの他メディア展開で、ファンと作者が一番ハッピーになれるのは「ゲーム」で、いまは「ソーシャルゲーム」だと思います。中国では、二次展開されたソーシャルゲームのヒットが、マンガ家にとって貴重な追加の収入源になっています。


現在リリースされている多くのソーシャルゲームは、マンガや小説の持つ表現の豊かさに比べると、楽しめる幅はまだまだ狭い。それでも「楽しめるゲームの型」はあり、それは「おもしろい物語に必要な型」でもあります。この型にはめて、狭さを活かす物語を考えることもマンガの企画には必要ではないかと思います。


この型はソーシャルゲームだけでなく、これまでにヒットしたテレビゲームにも活用されているので、それらの事例を交えながら説明しましょう。


・・・


主人公だけでなく、敵が戦う理由にも共感できるポイントを設ける


佐渡島:「楽しめるゲームの型」の構成要素には、「対戦」「成長」「育成」「収集」「交換」の5つがあります。


まずは「対戦」です。「敵」と言い換えてもよいかもしれません。私は、これが一番重要だと考えています。


魅力的な対戦には、「敵は何者なのか?」や「敵はどのような時に登場するのか?」など、丁寧な設定が必要です。


なかでも、敵が主人公と戦う理由に「これ、共感できるなぁ」と思えるポイントがあるとよいでしょう。「地球滅亡を企む絶対悪を倒す」ではなく、「敵と主人公の両方が正義である」ストーリーだと、大人でも楽しめる物語になります。圧倒的な悪を倒す勧善懲悪は、物語としてわかりやすいですが、大人にはリアリティがかけて感じられます。

敵と戦う理由をつくるのが非常にうまいと思う作品は、『機動戦士ガンダム』シリーズです。その設定の妙が、息の長い人気を誇る理由のひとつだと思います。



・・・


登場キャラクターを量産できる世界観を構築する


佐渡島:「ソーシャルゲーム」への展開を考えた場合、キャラクターを続々追加させるために、敵も味方もキャラクターを量産できる世界観がマンガに内包されていることが求められます。さらに、強者のインフレ構造を感じさせない仕掛けが施されているかも大切なポイントです。『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢』、『キン肉マン』は、次から次へとストーリーに合わせて様々なキャラクターが産み出されました。これらの作品は、いずれもソーシャルゲーム化されて、大成功しています。


・・・


「成長」、「育成」、「収集」「交換」のやりこみ要素を盛り込む


佐渡島:2つ目の要素は「成長」です。『ドラゴンクエスト』シリーズを例に挙げると、主人公はモンスターとの闘いで経験値を獲得し、一定値に達するとレベルアップします。次のレベルアップに必要な経験値はわかるため、達するまでまた戦います。みなさんは、早くレベルアップしたくて、ストーリーそっちのけでメタルスライム狩りをした経験はありませんか?これも、楽しまれるゲーム設計の工夫のひとつだと思います。


3つ目は「育成」です。第1作目を除いたほとんどの『ドラゴンクエスト』シリーズでは、主人公以外の仲間たちをレベルアップさせたり、転職させたりして育成します。また、『ドラゴンクエスト5』ではモンスターを仲間にして育成したり、『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズでは、モンスターの配合によって新しいキャラクターを誕生させ、育成できます。読者の中には、ゲーム本編よりも育成に熱中してしまった方もいるのではないでしょうか。


最後の要素は「収集」「交換」です。装備品を集めたり、レアなアイテムを入手するためにマップの隅から隅までメダルを探索したり...。楽しめるゲームには、アイテムを全てコンプリートしたくなるような仕掛けが施されています。


・・・


アイテムや呪文のネーミングを工夫する


佐渡島:『ドラゴンクエスト』シリーズには、成長や育成、収集したくなる仕掛けがたくさん盛り込まれていますが、なかでも武器・防具と呪文のネーミングは秀逸だと思います。


ストーリーの序盤に主人公が装備している武器はひのきのぼうで、防具はぬののふくです。次の段階になると、武器はこんぼう、どうのつるぎ、はがねのつるぎに、防具は、たびびとの服、かわのよろい、てつのよろいとグレードがアップしていきます。名前だけで、どちらを装備した方がよいかが直感的にわかるように工夫されているのです。


呪文も、メラとメラゾーマだったらメラゾーマの方が、イオとイオナズンだったらイオナズンの方が強そうですよね。収集するアイテムや習得する呪文などのネーミングを設定する際は、このようなわかりやすさを意識して考えるとよいでしょう。


・・・


自分のコンテンツにおける「対戦」「成長」「育成」「収集」「交換」とは?


佐渡島:最後に、今回紹介した「楽しめるゲームの型」をどのようにしてマンガに活用するかを考えてみましょう。


対戦について、「物語の中で誰と戦い、何を困難とするのか?」や「何を大義に戦うのか?」という問いかけをすると、物語の設定が広がるでしょう。


次に、その対戦を通じて実現されるであろう「主人公にとっての成長は何か?」を問い、さらに「何を育成するのか?」を考え、「何を収集するのか?」についても検討しましょう。


これら全ての要素を予め設定することで、マンガが魅力的になるだけでなく、ゲームへの二次展開もしやすくなるはずです。


聞き手・構成 / 高橋淳一 @jayjaytakahashi & コルクラボライターチーム

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02月05日

マンガ家や編集者といったエンタメ業界に止まらず、現在あらゆる仕事において、人をワクワクさせる『企画力』というものが求められています。


「世の中にオドロキや感動を届けたい…!」


そう意気込みながらも、なかなかナイスなアイデアが浮かばない…。そんな、あなたにオススメしたいのが、この連載企画「佐渡島庸平 presents 企画のおすそ分け」


コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた大ヒットを狙えるかもしれないマンガの企画を紹介しながら、アイデアを練る際の考え方も同時に伝授していきます。


「なるほど…。ヒットする企画というのは、こういう風に考えればいいのか。」


そんな風に、企画力を高めるヒントをここから持ち帰ってもらえたら嬉しく思います!


さて、2月は、0から1を生み出す企画の立て方ではなく、1を10にするための企画の磨き方について話をしていきます。


ずばり、テーマは『他メディア展開から、企画の強度を磨く』です。


今週はテーマの説明と、他メディア展開における「小説」についてお届けします。


・・・


他メディアでの展開を考えると、アイデアが磨かれる


佐渡島:今月の企画は『他メディア展開から、企画の強度を磨く』です。


アイデアは思いついたんだけど、それを膨らませることが、なかなか難しい…。こんな相談をもらうことがよくあります。


確かに、面白いマンガのネタを思いついたとしても、「どういう主人公にして、どういう舞台設定にして、どういう展開をしていくと面白さが増していくのか?」と、企画を磨いていかないとヒットするマンガにはなりません。


そんな時、僕は他メディア展開を考えることで、アイデアを膨らませます。


「このマンガを映画化したら、どんな俳優が、主人公を演じるんだろう…?」


「ゲーム化するとしたら、どんなジャンルのゲームになるんだろう…?」


「キャラクターグッズを作るとしたら、どういうグッズ展開が良いのだろう…?」


このように考えてくと、演じてもらいたい俳優に合わせて主人公の顔や雰囲気を寄せてみたり、グッズ化しやすいようにキャラクターを追加したりと、アイデアがどんどん膨らみ、強度の高い企画に磨かれていきます。


そして、これはビジネスの企画においても同様だと思います。


「この企画でレストランやテーマパークとコラボレーションしたら、どうなるんだろう?」


「この企画をWeb上で体験してもらうとしたら、どういう形がいいんだろう?」


「この企画でグッズを作るとしたら、どういうものが喜ばれるんだろう?」


様々な場所での展開や、違う職種の人とのコラボレーションについて考えてみると、アイデアが叩かれて強い企画になっていくはずです。


今月の『企画のおすそ分け』では、ヒットするマンガの企画を磨くために、あえてマンガ以外のメディアについて考えることでアイデアを膨らます方法を、メディアごとに考えていきたいと思います。


・・・


小説で描かれている抽象概念をマンガで伝えてみる


佐渡島:さて、今月1回目となる今週は「小説」について考えてみます。


マンガから小説に展開するノベライズはよくありますが、今回は小説からマンガに展開するという逆転の発想から、マンガのアイデアを磨くということを考えてみたいと思います。


小説の一番の魅力とは、何でしょうか?


それは、目に見えない抽象概念を伝えやすいということです。


愛とは何か?なぜ人は生きるのか?


そういう抽象的なテーマを真正面から捉えて描くことができるのが小説の醍醐味です。


数年前に、遠藤周作の小説『沈黙』が映画になりました。この作品で描かれている人間と人間の対立のエピソードは映像化され、映画として成り立っています。ただ、遠藤周作が問いかけていた「神とは何か?」というテーマに対して、映画を観終わった後に自分なりの考えを深めようとするとなかなか難しいのではないでしょうか。一方、『沈黙』の小説を読み終わった後では、読みながら思考が徐々に深まっているので、自分の考えを整理することができます。


つまり、映画は世界観をリアルに受け取れますが、小説だと思考を深めることができる。これが小説の最大の魅力なのではないでしょうか。


青春小説の多くは、主人公の頭の中の考えがグルグルと書き連ねてあります。青春小説と呼ばれる作品には、そういうものが多く存在します。『若きウェルテムの悩み』や『人間失格』『風の歌を聴け』のような青春小説を、単純に心の声をネームにして、マンガで表現しようとすると、物語展開が何も起こらず、つまらない作品に仕上がってしまうでしょう。主人公は何もしないし、ずっと考えているだけなので、「ウジウジしてる奴だなぁ…」と読者に思われて終わりってしまう可能性もあります。


マンガは、映画と小説の両方の良さをバランスよく取り入れることが可能だと思っています。映画のようなリアリティを絵で保ちながら、小説ような抽象概念も、一定量なら伝えることができる。


例えば、安野モヨコの作品をみると、抽象概念をうまくマンガで表現していると思います。『鼻下長紳士回顧録』などは、特にそうです。真っ白や真っ黒の背景の中に抽象概念だけが浮かび上がっているというコマ運びがすごく上手い。だから、作品に触れると、文学作品を読んでいるような不思議なテイストをいつも感じることができ、独特の読み応えのある作品に仕上がっています。





変態という概念を、映画でセリフとして誰かが読み上げたとしても、抽象度が高くすぎて、頭になかなか入ってこないと思います。小説だと、もっと抽象的な描写が長くなるでしょう。


だから、マンガ家を目指している人は、好きな小説を見つけたら、その小説のあらすじをマンガで表現することを考えるのではなく、こう考えてみてください。


「この小説が描いている目に見えない抽象概念を、自分だったらどういう風にマンガで表現するか?」


「どういう風に表現すると、小説以上にその抽象概念が伝わるか?」


これを実践していくことで、独特の雰囲気があって、オリジナルな読み応えのあるマンガ家になれると僕は思います。是非、試してみてください。



聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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01月29日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、温めている漫画の企画を「おすそ分け」としてシェアするこの連載企画。


1月の企画の立て方のテーマは、「大きな時代の流れを読む」です。


絶対に揺るがない不可逆な時代の流れとは何かを考え、その流れにのることで作品を多くの人が読みたいと思うものに仕上げる。そんな「大きな時代の流れを読む」という企画の立て方で考えた、具体的な企画の題材を4つ紹介しています。


***


人類史上、最も注目を集め続けるイベント。


佐渡島:4つ目となる企画は、「オリンピックをテーマとした競技を描く」です。


これは言わずもがなですが、オリンピックというのは4年に1度は必ず開催されて、毎回毎回、確実に盛り上がります。


人類の歴史の中で、こんなに注目を集め続けているイベントは、あまりないと思うんですね。


なので、オリンピックが舞台となるような競技で漫画を描くというのは、大きな時代の流れを読むという意味で、ヒットを生むことのできる確率がすごく高いんです。


でも、世の中を見渡すと、オリンピックを舞台にした漫画って意外と少ないんですよ。体操を題材にした『ガンバリスト! 駿』がありましたが、それも連載が終了して随分経ちます。


サッカー、野球、バスケットボールを題材にした漫画は沢山ありますが、そのほとんどがプロスポーツであったり、高校選手権が主な舞台になっていて、オリンピックを目標にして戦っているわけではないんです。


そう考えると、オリンピックが舞台になって、多くの人が語りたくなる競技を漫画の題材とにするのは、他に作品が全然ないので、関心が集まりやすいんです。


そこで、今回は数あるオリンピック競技の中でも、特に僕が企画として面白い漫画が描けそうな2つの題材についてお伝えします。



オリンピック競技で、ヒットの可能性が高い題材とは?


佐渡島:まず1つ目は、サーフィンです。


サーフィンは2020年の東京オリンピックで初めて正式種目になり、今注目が集まっています。


そして、サーフィンが好きな人というのは、どの時代にも安定的にいて、サーフィンについて熱く語りあっています。競技人口が少なくても、長く存在できているというのは、サーフィンの競技としての奥深さが強いからだと思うんです。


これって、ワインと一緒だと思います。ワイン好きって、いつの時代も存在するじゃないですか。しかも、ワインについて深く語り合っている。それはワインが語りたくなる奥深さを持っている飲み物だからなんです。


だから、ワインの奥深さを描いた漫画『神の雫』は、すごくヒットしましたよね。それまでワインを題材にした漫画は『ソムリエール』くらいしかなかったので、ワイン好きの人にも読まれるし、ワインの奥深さを知りたいと思っていた人にも歓迎されました。


サーフィンもワインと同様に奥深さがあり、多くの人がその奥深さに1度は触れてみたいと思う題材なんじゃないかと思います。しかも、オリンピックというドラマが生まれる瞬間を物語に組み込むことができます。


なので、ヒット作品を生み出すという意味では、サーフィン漫画はすごく可能性がある題材だと思っています。


そして、2つ目は、パラリンピックです。


パラリンピックは回を重ねるごとに規模が大きくなってきて、注目度合いも増してきています。


そして、テクノロジーの進化により、技術による人間の身体へのサポートの質もどんどん伸びてきています。先日、乙武さんがモーターを搭載したロボット義足をつけて、義足訓練を開始したことも大きく話題になりました。


もしかすると、このまま技術が進化していくと、義足の人の方が、義足じゃない人よりも100メートル9秒台を早くきる可能性があるのかもしれない。


そうすると、パラリンピックの方が、オリンピックよりも見応えがあるという時代が訪れるかもしれません


そして、健常者と身体的にハンディキャップをもっている人の差とは何かを、みんなが考え始めるようになる…。


そんな少し先の未来を描く漫画は、とても読んで見たくなりませんか?


大きな時代の流れを読むという意味でも、未来においてテクノロジーがますます進化していくというのは、絶対に不可逆な流れなんです。


パラリンピックを目指すアスリートたちを主人公にした物語というのは、大ヒット漫画になる可能性がとても高いと思います。



…ということで、オリンピックをテーマにした題材として、僕が最も注目しているのは、サーフィンとパラリンピックです。


これからもオリンピックは絶対に多くの人を惹きつけてやまないイベントとして存在し続けるでしょう。


オリンピックをテーマに、この2つを題材に漫画を描いてくれると嬉しいですし、「この競技を題材にした漫画の方がもっと面白いものが描けそう」というものがあれば、その競技を題材にチャレンジしていってもらえると嬉しいです。



聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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01月22日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、温めている漫画の企画を「おすそ分け」してシェアする連載企画。


1月の企画の立て方は、「大きな時代の流れを読む」がテーマです。


絶対に揺るがない時代の流れとは何かを考え、その流れにのることで多くの人が読みたい作品に仕上げる。そんな「大きな時代の流れを読む」という観点からの具体的な企画を4つ紹介しています。3つ目は、サラリーマン経験者によるサラリーマン漫画です。


***


組織の一部として働く者だけがわかる、人間関係の悲哀


佐渡島: 日本人が最も共感できる職業って、なんだと思います?


会社員です。


かなり当たり前な答えです(笑)。最も多くの社会人が経験しますからね。いくら時代が変わっても、本質的な需要がある題材です。


ところが、その大多数に対して、サラリーマン漫画の数は圧倒的に少ない。


有名どころでは、連載40年となる『釣りバカ日誌』。2年前に作画の高井研一郎さんの急逝で完結した『総務部総務課 山口六平太』。『島耕作』シリーズは、島耕作が会長まで出世しちゃったから、共感できる側面は薄くなってしまいました。


女性が描く会社員漫画では、広告代理店で働く女性が主人公の『サプリ』や、週刊誌編集者を描いた『働きマン』などがありました。ただ、『サプリ』は恋愛が絡むし、『働きマン』の描く編集者の世界は会社員のなかでもちょっと特殊です。


僕が描いてほしのは、人間関係の悲哀個人に意思決定権がない、分業の一部である組織の中だからこその興奮や喜怒哀楽、人間関係です。


会社や業務が違っても組織形態は似ているから、共通することはたくさんあります


この発想で作られているのは、『サラリーマン金太郎』です。爆発的なヒットコンテンツですよね。


ただ、サラリーマンとしての活躍や成長が描かれる一方で、サラリーマンの枠に収まらず大胆に行動する矢島金太郎は、リアリティに欠けます。だからこそ面白いともいえますが、もっと現実的な世界でのサラリーマンの悲哀を読みたい。



受け取る人たちは多いのに作品数が少ないのはなぜ?


では、なぜ市場にある漫画作品は少ないのか。


サラリーマン経験が何年もある漫画家が、ほとんどいないから


実際、漫画家が数百人集まるような会へ行っても、10年~20年勤めた元サラリーマンには、なかなか出会えません。


『島耕作』シリーズの弘兼憲史さんも会社員だったのは数年だけ。『ドラゴン桜』や『インベスターZ』の三田紀房さんなら描けそうでしょう? でも三田さんも、会社員経験は1年だけ。サラリーマンや中間管理職経験がしっかりある人は、めったにいません。


小説家に元サラリーマンは、けっこういます。『半沢直樹』シリーズや『下町ロケット』の池井戸潤さんをはじめ、10年、20年組織で働いた後に小説を書こうと始めてみたら優れていた。そんなことは起こり得ます。


マンガ家の場合は、10年~20年のサラリーマンを経て、絵を一度も描いたことがない人が「漫画を描こう!」と目指すことはあまり起こらない。


だったら取材して描けばいいと思うかもしれませんが、サラリーマン未経験者が取材して漫画にするのは簡単ではありません


というのは、医療漫画や編集者漫画などは、その業界に詳しくなくても注目するべきポイントがわかりやすいですよね。だから、取材の質問もしやすい。


サラリーマン漫画は、そうではない。


「オレはこの企画がすごくやりたくて熱くなっていたのに、あそこでアイツにあんな風に潰された。このやりきれない気持ちってなんだろう……」。こういった感じの、勤め人がままならなさを堪えるようなエピソード描きたいものの、そんな怒りや悔しさはけっこう繊細な感情です。うまく説明できる人はそういない。


取材する側もなかなか聞き出せないし、質問しようにも質問が核心に届かないんです。



「わかる!」が描ければ、絵はいくら下手でもいい


そんななか、漫画を描いて気楽にネットで発信できるようになりましたよね。自身の子育て体験をシンプルな絵で表現する育児マンガのような、ネット発のエッセイ漫画は増えています。


育児マンガのような単純な絵のノリでいいからサラリーマン漫画があれば、ヒットが狙えると考えています。


育児マンガもそうですが、物語に共感するかどうかは絵ではありません「わかる!」と読者が抱くかどうか


はあちゅうが描く『旦那観察日記~AV男優との新婚生活~』は、絵はすごくシンプル。でも、夫のしみけんさんはAV男優という特殊な職業ながら、夫婦の会話やエピソードを通してたくさんの「それってうれしいよね!」「テンション上がるよね!」という「わかる!」があるから支持されているわけです。


実は『SLAM DUNK』だって、「部活している(していた)人はわかる!」というリアルな気持ちを描いた物語。「ゴリの気持ち、わかる…!」「桜木花道や流川楓みたいにオレたちもなりたかった…!」といった自分の経験や理想と重ねられるようなリアリティがあります。


つまり、サラリーマン経験者によるサラリーマン漫画に、『SLAM DUNK』のようないい具合に嘘(理想)が入ったものがいい。読む人はサラリーマンの細部の業務内容を知りたいわけではないから、共感できる理想がないといけない。そんな嘘をどう混じらせていくのかも重要です。


今回のテーマである「大きな時代の流れを読む」の題材は、そのものの価値はずっと普遍的にあって、受け取る人も多くいる。そんな観点で探してみてください。


飲料商品でいうと、水やお茶ですね。水道でも飲めるし、お茶は家で沸かせる。当たり前すぎて売ることをなかなか思いつかなかった。でも、普段から飲んでいるという、そのもの自体にずっと価値はあった。いち早く参入した伊藤園さんの『お~いお茶』は、今も圧倒的な支持がありますよね。


サラリーマ漫画は水やお茶と同じ。当たる可能性が永遠にあるんです。



聞き手・構成/平山ゆりの @hirayuri &コルクラボライターチーム


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01月16日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、温めている漫画の企画を「おすそ分け」としてシェアするこの連載企画。

1月の企画の立て方のテーマは、「大きな時代の流れを読む」です。

絶対に揺るがない不可逆な時代の流れとは何かを考え、その流れにのることで作品を多くの人が読みたいと思うものに仕上げる。

そんな「大きな時代の流れを読む」という企画の立て方で考えた、具体的な企画の題材を4つ紹介しています。

今回は2つ目の企画である「グルメ漫画」についてお届けします。


***


おいしい食事とはこれである

佐渡島:次はグルメ漫画。グルメ漫画って、すでにエッセイ漫画として大量に出ていますよね。


『孤独のグルメ』や『きのう何食べた?』、『ズボラ飯』、『極道めし』『ひとりごはん 』なんかもそうですけど、どちらかというと、作って食べる側の話なんですよね。


『ダンジョン飯』や『ゴールデンカムイ』なんかは食べるシチュエーションだったりするかもしれないけど、食べ方についてのグルメ漫画はいっぱいあるんです。


でも、『美味しんぼ』や『ミスター味っ子』の後を引き継ぐ、美味しい食事とはこれであると言い切るような、食の知識が深まる漫画というのが最近ずっとない。


レシピ漫画はあったりするけど、美味しんぼの後継漫画が存在してないなと思っていて、そういう時に、さっきの東大の話と一緒で、揺り戻しについて考えます。


僕は色んな人に話を聞くのが好きで、いろんな話を聞いている中で、牛肉関係者と鶏肉関係者の両方から同じような話を聞いたんですよ。


「いまの日本というのは、柔らかくて口の中でとろけるのが、美味しい病にかかっている」って。


“やわらかい”、“ふわふわ”、“とろける”。この3つの言葉が美味しさを表す言葉になってしまっていて、それはプリンだけにしてくれと。


牛肉や鶏肉とかが、口の中でとろけたりするのは美味しいとは限らないんだと。とろける肉が美味しいという風になっちゃっているので、牛肉だとサシが入りすぎちゃうんです。


鶏肉だと不自然なくらいに水を与えて、ある種、途中で鳥が苦しむような育て方をして最後は殺して食べるわけなんですけど、そうやって肉を柔らかくするそうなんです。


でも、畜産をやっている人たちが、いい肉ができて、食べて美味しいと思うのは、それなりに歯ごたえがあって、噛みごたえがあるお肉で、いまは自分たちが美味しいと思っているものが、市場に出せないって言うんですね。


最もお肉に詳しい人たちの最高と思っているものが、市場で評価されていないというのは、食が歪んでいる状態だと思っていて、この歪みというのは絶対に揺り戻しが来るんだろうなと。


そして、この揺り戻しがなんのきっかけで来るのかっていうのは、わからないんだけど、そのキッカケが自分の漫画だったら嬉しいですよね。食の知識というものが、もう一回語られ直すというのは、すごく良いだろうなと思っています。


食の知識のアップデートが必要


今って畜産の仕方や、分子料理(食材や調理のプロセスを分子レベルで捉える調理方法)とかにしてもそうだし、技術的な進化というのが、食の方にもう一回きています。


AIの力を借りることもできるし、レシピをどうやって作るのかといったことや、美味しいとは何かといったことが、もう一回科学的に研究されだしている。


食の知識自体も一気に広がって、深みがあって面白い状態になっていってるから、それは確実にみんな知りたいところだろうなと思います。


食べる状況をパッと書ける人はいっぱいいるだろうから、グルメ漫画が当たるとなった時に、ガーッと広がったわけですが、やっぱり本質的というか、正しい知識への需要というものはあって、正しい知識を手に入れる一手間をかけた漫画というのは確実に面白いです。


食というのは全員が興味のあることだから、全員が興味のあることに対して、正しい知識を発信していくのは絶対に当たります。


そして、さっきの話のような歪んだ知識が広まっているという状況を見つけると、そこから面白くできますよね。


だから、口の中で「ふわーととろけて消える」というのは許さん!と思っている料理人が登場する一話目というのは印象的だと思うんです。その言葉を聞くたびにイラっとするっていう人が。


ワインだって、なにも知らないで、すごい上等なワインを飲んでも、「渋っ!飲めない!」となってしまう可能性だってあるわけで、実は美味しいというのは、頭で味わうところもありますからね。


ということで、グルメ漫画はイケるのではないかと思います。


聞き手・構成/頼母木俊輔 @MOGGYSBOOKS &コルクラボライターチーム


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01月09日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、温めている漫画の企画を「おすそ分け」としてシェアするこの連載企画。


1月の企画の立て方のテーマは、「大きな時代の流れを読む」です。


絶対に揺るがない不可逆な時代の流れとは何かを考え、その流れにのることで作品を多くの人が読みたいと思うものに仕上げる。そんな「大きな時代の流れを読む」という企画の立て方で考えた、具体的な企画の題材を4つ紹介しています。


今回は、テーマである「大きな時代の流れを読む」の意味と、1つ目の企画である「中国の人達が楽しめるコンテンツをつくる」についてお届けします。


***


揺るぎなく、不可逆なものとは何なのか?


佐渡島:今月の企画の立て方のテーマは「大きな時代の流れを読む」です。


僕は、漫画家や作家が作品を作る際には、“自分らしさ”というものを作品に出すことが重要だと思っています。なので、その時々の瞬間的な時代の空気感に作品を合わせにいくような企画の立て方はやめて欲しいと思っているんですね。


でも、世の中を見回した時に、揺るぎなく不可逆な大きな時代の流れを意識することは大切です。


さらに、その流れの中で“淀み”が生じている箇所があれば、ヒットに繋がる可能性がとても高いと考えています。


『ドラゴン桜』も、この淀みを発見したところから始まった企画でした。


当時は、週刊誌などで、「東大の価値が下がってきている」とよく報道されていたんです。東大卒より早慶卒の人の方が就職してからのパフォーマンスが高いだとか、東大に入ると就職がしづらいとか。


でも、実際には、報じられるほど、東大の価値が下がっているわけではなかったんです。明治以降150年間、東大の地位は揺るがなかった。そして、世界全体を見渡してみても、各国のトップと言われる大学は、ほぼ国立の大学なんです。それが、ここ5年、10年で揺らぐ可能性の方が圧倒的に低いわけです。東大が築いてきた地位はそう簡単に崩れないという大きな流れの中で、まさに淀みが生まれていました。


そう考えた時に、やっぱり東大は目指すべき場所であることを漫画で描くこと自体に価値がありますし、「やっぱり、東大はすごい」と時代の風向きが戻った時に、その流れにのって漫画が大ヒットになる可能性があるわけです。実際にドラゴン桜はそうでした。


『宇宙兄弟』も同じです。企画を立てていた当時は、宇宙をテーマにした記事って、ほとんどメディアで見かけなかったんです。むしろ、宇宙開発への予算は抑えた方が良いんじゃないかという議論があったり、産業としても危ぶまれていました。


でも、大きな視点で見ると、宇宙開発で人類が月に行くことって、いつの時代も確実にワクワクすることなんですよ。人間の宇宙への関心は絶対に尽きるはずがないと思っていたんです。


実際に、宇宙兄弟が連載開始して2年後くらいに日本で新しい宇宙飛行士の募集が始まり、新しい宇宙飛行士が生まれました。今では『スペースX』だったり、宇宙に関する様々なニュースが日々報道されていますよね。『宇宙兄弟』も大きな時代の流れにのって、大ヒットした作品と言えると思います。


もしかすると、“投資の神様”と呼ばれるウォーレン・バフェットの株の買い方の考えに近いのかもしれません。彼はカミソリ会社の大株主になっていますが、その理由はどんなに技術が発展しても、ヒゲを剃る人は絶対にいるからカミソリの会社は安泰であろうという考え方に基づいています。バフェットも、トレンドに流されず、長期的な視野を持つことが大切だとよく言います。


絶対に変わらないであろうという、大きな時代の流れを読みながら、企画を考えることは、すごく重要です。そして、そこに淀みが生まれていたら、大きなチャンスかもしれません。


***


中国の古典を、どうリメイクするか?


佐渡島:ということで、「大きな時代の流れを読む」というテーマで、今月は4つの企画を話します。


初回となる今回は、一番わかりやすい大きな時代の流れを紹介します。


それは「中国の人達が楽しめるコンテンツをつくる」ということが、これから大ヒット漫画を生み出す可能性が高いということです。


人口が多く、中流層が増え続ける中国の人達が、コンテンツにますますお金を払うようになるというのは、どう考えても絶対的な流れです。なので、中国の人達が楽しめるコンテンツを作ることができれば、市場が圧倒的に広いので、特大級の大ヒット作品に繋がる可能性が高いわけですね。


そのなかでも、僕は中国の古典を描いた作品に魅力をすごく感じています


例えば、『三国志』や『西遊記』などの中国の古典は、これまでに何度もリメイクをされるほど、人気があります。そして、中国の古典や歴史が舞台の作品って、日本人にもすごく人気がありますよね。最近の『キングダム』の流行りを見ていても、そう感じます。


僕は、今の時代、全く新しい物語をつくることだけではなく、過去の作品をどうリメイクするのかが非常に重要だと思っています。そこでいうと、中国の古典ってリメイクをする対象としてすごく魅力的なんです。


そう考えた時に、中国人にとって「知ってるようで、知らなかった」という古典を探して、それを漫画化すれば、中国人にも、日本人にも、大ヒットする作品がつくれるかもしれません。


僕は、僕らの知らない素晴らしい中国の古典が、まだまだ沢山眠っているはずだと思っています。


「中国は日本から色々とパクる」みたいなことを言う人がいますが、長い歴史から見たら、中国から日本が学んでいることのほうが圧倒的に多いわけです。昔から、中国から日本にきた渡来人などが、日本の政治も文化もリードをしてきました。


このように、中国の人達のコンテンツをつくる力というのは、素晴らしいものがあるので、きっと今の時代に生きている人でも夢中になる古典が沢山眠っているはずです。しかも、それを掘り当てた時は、日本人も、中国人も楽しめる超特大級のヒット作品になる可能性が高いわけです。



ということで、「大きな時代の流れを読む」という企画の考え方の1回目は、絶対に不可逆な流れということで、「中国の人達が楽しめるコンテンツを作る」を紹介しました。


中国の古典の山に宝があるかもしれないということで、それを探しにいってもらえればと思います。また、「こんな面白い中国の古典があるよ」とご存知の方がいたら、是非教えて欲しいですし、その漫画化にチャレンジしていただけると嬉しいです。



聞き手・構成/井手桂司@kei4ide &コルクラボライターチーム

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2018年12月25日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた漫画の企画を「おすそ分け」としてシェアするこの連載企画。


※企画背景についてはコチラ→『このアイデア、作品にしませんか? 編集者・佐渡島庸平の企画のおすそ分け、始めます! 』


12月の企画テーマは、「感情が強く動いた瞬間」です。ものすごく強い感情が生まれた(生まれたであろう)瞬間を見つけ、その感情を最も有効に伝えるための物語をいかにして紡いでいくか。「瞬間の感情を軸にする」というアプローチの物語のつくり方として、具体的な企画を4つ紹介しています。


***


娘を失った父親が、娘の心臓を移植された男性の鼓動を聞く


「強い感情が生まれた瞬間を漫画にしよう」がテーマの、最終回。


4つ目となる今回の題材は、佐渡島さんが「これは物語のきっかけになる!」とtwitterでもシェアしたノンフィクション映像から。感情が強く動いた瞬間を見つけるのは、世に広まっている動画からでもいいのです。


佐渡島さんの琴線に触れた動画はコチラ→急死した娘の心臓を移植され命を救われた男性に会いに来た父親、亡き娘の心臓の鼓動を聞く


プールの事故で、ある日突然20歳になる娘を亡くした父親。脳死状態になった娘の心臓は、心不全の成人男性に移植されました。


悲しみにくれた父親は、移植された男性の家まで自転車で旅をします。その距離、2200キロ。


ようやく会えた父親は、移植先である男性から聴診器を受け取ります。「どうぞ(聞いてください)」と男性。父親は、聴診器を通して、動き続ける心音を聞きます。そして、小刻みに震えながら静かに涙を流すのです。


今回は、娘の鼓動を聞いたこの父親が「娘に会えた!」と思えた瞬間について。


愛娘を亡くした父親は、どんな思いから移植した心臓の音を聞きたかったのか?


そして、娘の心臓を探して、再会した(鼓動を聞いた)。この瞬間の強い感情が最も伝わるような物語はどうすれば作れるのだろうかと考えて、物語を描けばいい。そう佐渡島さんは言います。


では、今回の企画のポイントを、佐渡島さんから詳しく教えてもらいましょう!


***


刻みづける娘の心音を聞くことで、娘に会えた……!


佐渡島: 「この瞬間って、ものすごく強い気持ちが生まれたにちがいない!」。 そんな風に思うのは、日々のニュースや動画の中にもたくさんあります。


この動画は、たまたま見つけた実話です。


娘さんを、事故で亡くしたお父さん。娘は脳死状態となり、その心臓は移植に使われて、娘とはまったく似ていない黒人男性の心臓になりました。


基本的に、臓器を提供する側は、移植してもらった相手と会うことはできないといわれていますよね。娘の死後、このお父さんは家族として臓器提供に承諾したわけで、移植先の相手に会えないことも、会っちゃいけないこともわかっていたと思うんです。


でも、娘を失った深い悲しみのなかで、会いたい気持ちは募っていった。


「娘に会えなくてもいい、その心臓の鼓動を聞きたい」。そう願ったのではないでしょうか。


お父さんは、娘の心臓によって命を救われた男性を探して、たどり着きました。対面して聴診器を受け取ったお父さん。


男性の胸に聴診器を当て、静かに心音を聞く。心音に耳をすましているときのお父さんのたたずまいが、めちゃくちゃ魅力的なんですよね。


ドク、ドク、ドク、ドク、ドク……。


鼓動を感じたときの、お父さんの気持ち。「娘に会えた!」という感情を、物語にしてほしい


このシーンをクライマックスにして描いてもらえると、僕としてはうれしい。


感情の強い瞬間を見つけたら、そこをピークに持っていくために広げていく。この瞬間の気持ちを最も伝わる物語にするためには、その前でいかに描くのがいいのか。過不足なく考えていくわけです。


「この感情を描きたい!」という強い思いを、漫画家は持っておいてほしい。


小山宙哉さんは、『宇宙兄弟』の連載を始めた当初から「この感情を描きたい!」とずっと考えていたことがありました。


ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬の開発をする伊東せりかが、顕微鏡をのぞいてALSの治療薬開発に大きく近づく細胞を見つけたその瞬間。その時のせりかの感情を描きたい、と。


感動であふれ出る涙が無重力でせりかの周りを囲む。無重力ならではの涙の絵を描きたいと、小山さんは初期から決めていたようです。


作家自身が強く思い、そこをどう演出するかに注力することはすごく重要です。


いろんな人の感情が強く動いた瞬間を探し続けることこそ、漫画のネタを探すということ


その瞬間を見つけたら、メモしておくことをオススメします。その一つひとつを軸に、短編も長編も必ず作ることができます。


ぜひ、意識してみてください。


***


「強い感情が生まれた瞬間を漫画にしよう」シリーズは、今回でおしまい。次週からは、「大きな時代の流れを読んで漫画にしよう」という視点から、企画の立て方や作品のつくり方を学んでいきます。


聞き手・構成/平山ゆりの @hirayuri &コルクラボライターチーム

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2018年12月18日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた漫画の企画を「おすそ分け」としてシェアするこの連載企画。

※企画背景についてはコチラ→『このアイデア、作品にしませんか? 編集者・佐渡島庸平の企画のおすそ分け、始めます! 』

12月の企画テーマは、「感情が強く動いた瞬間」です。ものすごく強い感情が生まれた(生まれたであろう)瞬間を見つけ、その感情を最も有効に伝えるための物語をいかにして紡いでいくか。「瞬間の感情を軸にする」というアプローチの物語の立て方として、具体的な企画を4つ紹介しています。


***


『万葉集』に存在する「よみ人しらず」。

3つ目となる今回の題材は、「万葉集を編纂したと目される大伴家持(おおとものやかもち)が、『よみ人しらず』の歌を、万葉集に収録すると決めた瞬間」です。


日本に現存する最古の和歌集である『万葉集』。名前だけは知っている方も多いはず。


7世紀後半から8世紀後半にかけて、天皇、貴族から一般庶民にいたるまで、様々な身分の人々が詠んだ歌が4500首以上も収録されています。


日本人の心の原風景に触れてみたいと、関連する書籍が発売されたり、歌の内容を学ぶテレビ番組が放送されたりと、現代においても多くの人々の興味を惹きつける万葉集。


その万葉集に『よみ人しらず』の歌が掲載されていることは、ご存知でしょうか?

『よみ人しらず』とは、字のごとく、詠んだ人がわからないということです。


天皇をはじめ、国の中枢にいる権力者たちが深く関わっている万葉集に、誰のものとも分からない『よみ人しらず』の歌が、なぜ掲載されたのかーー?


万葉集を編纂したと目される大伴家持がこの決断を下した瞬間にこそ、物語として描かれるべきドラマがあるのはないかと、佐渡島さんは言います。


では、企画ネタの詳細を、佐渡島さんにお話していただきます!


***


あえて『よみ人しらず』にした?


佐渡島:日本最古の和歌集である『万葉集』。ほとんどの人が国語や歴史の授業で名前くらいは聞いたことがあると思います。


この万葉集には、『よみ人しらず』の歌が多数掲載されています。


では、万葉集を編纂していたと目される大伴家持が、歌を詠んだ人達を本当に知らなかったのかといえば、どうやらそうじゃないらしいんです。


あえて、『よみ人しらず』にしたのではないかと。


日本の和歌が好きな僕の知人がいて、『よみ人しらず』の歌って、読み手の名前はわかっているのに『よみ人しらず』としか記すことができなかった歌だと教えてくれたんですね。


では、なぜ『よみ人しらず』としか記すことができなかったのかーー?


それは、彼らが朝廷の政敵として葬られてしまった人達だからです。


大伴家持も万葉集の編纂を任されるくらいなので、文化人としては高い地位にあり、国の中枢にいる権力者たちと親交があったことは容易に想像ができますよね。


そして、当時は飛鳥や奈良時代。勢力争いが頻繁に起こり、その争いに敗北することは朝廷の政敵として葬られる運命なわけです。大伴家持の親友も争いに巻き込まれていたでしょう。


彼らが実現させようとした政(まつりごと)に、大伴家持も賛成していたかもしれない。でも、争いに敗れ、自分の親友たちが朝敵として殺されることになる…。その時、大伴家持は身がすくみ、見殺しにしてしまった...。

その罪の意識を大伴家持は心の中にずっと抱えます。


彼らのために、自分にできることは何かないのか.......?


そう考え抜いた末に行ったのが、彼らの詠んだ歌を万葉集に『よみ人しらず』として掲載することだったのではないかと。


勢力争いに勝利し、国の中枢を握っている権力者も、いつか全員死んでいく。そして権力者達が敷いた政治の仕組みも、また新しい権力者によって全部塗り替えられていく。


でも、この万葉集はきっと残り続けて、100年後、1000年後の人々にも届くかもしれない。


彼らが生きた証をここに残そう。彼らの心の美しさをここに刻もう。この万葉集を一生日本に残る歌集に編纂して、後世に伝わるものに仕上げたい 。


そう思いながら、大伴家持が友の歌を「よみ人しらず」として万葉集に編纂していくことを決めた瞬間ーー。


万葉集は天皇や貴族など権力者たちのもとで編纂をしているものなので、この決断は大伴家持にとっては、すごくリスクのある決断だったと思います。「よみ人しらず」の詠み手が政敵がつくったものだとバレたら、彼の命も危ないわけですから。


そのリスクを承知してでも、友の心を刻むと決めた瞬間の彼の感情は、どんなものだったのか?


この感情が強く動いた瞬間を、漫画で描けたら、すごく良い物語が生まれると思うんですね。


また、万葉集に掲載されている『よみ人しらず』の歌は沢山あるので、長期連載にも向いているんじゃないかとも思います。歌ごとにエピソードが生まれるし、当時の歴史も学べるし、歌の意味や奥深さにも触れられるし。


日本人として、万葉集って理解してみたいじゃないですか。


この企画に向いていると思える漫画家と出会えたら、一緒に万葉集を読みながら、歌ごとの意味を議論して、企画を深めていきたいと思っていたんですね。


ということで、今回の企画は日本人なら誰でも知っている万葉集を舞台に、「大伴家持が、『よみ人しらず』の歌を、万葉集に収録すると決めた瞬間」を漫画で描くことに挑戦してもらえたら嬉しいです。


===

(追記:2018年12月20日記載)


こちらの企画ネタを投稿したところ、ありがたいことに、『万葉集』に関する研究をされている施設の方から、アドバイスを頂戴しました。

まだまだ粗々な時点の企画ネタなので、専門家の方から指摘をいただけることは、大変ありがたく、追記という形で掲載させていただきます。

1.「大友家持」ではなく「大伴家持」。(こちら投稿文での表記を修正させていただきました)


2.『万葉集』には、作者名を記載しない歌が2000首以上ありますが、それらは「作者未詳歌」と呼ぶのが通例です。「よみ人しらず」というのは平安時代以降の呼称でして、『万葉集』にはふさわしくないかと存じます。


3.『万葉集』は、一度に編纂・完成されたものではなく、短くない歳月の中で、何度か増補・追補を経ていると考えられます。従いまして、全二十巻は、巻ごとに編纂意図が異なっています。歳月順に歌を並べた巻もあれば、四季ごとに並べた巻、東国の国ごとに並べた巻もありますし、前半と後半でテーマがまったく異なる巻もあります。作者名を記さない巻は、作者名記載を編纂方針にしていなかったからに過ぎないと思われます。


4.そもそも「大友家持も万葉集の編纂を任されるくらいなので…」とありますが、『万葉集』は、『古今和歌集』以降の勅撰集と異なり、下命者・編纂者・編纂時期・完成時期もよく分かっていません。家持が編纂者とされるのは『万葉集』を分析しての状況証拠に過ぎないのです。ですから辞典類では、家持のことを「万葉集の編纂者と目される」などと、微妙な表現をしているのです。(こちら投稿文での表記を修正させていただきました)


5.「そして、当時は飛鳥や奈良時代」以下、ですが、確かに、家持の友人や大伴一族の者が藤原氏に対するクーデター(橘奈良麻呂の変)に加わり、事前に発覚し、捉えられて拷問・処刑されています。家持はそれに加担しなかったもののやはり同族として様々に思い乱れるところはあったでしょう。しかし、例えば、そこで拷問死したと考えられている、彼の友人であり同族でもあった大伴池主の歌は普通に掲載されています。ここからも、家持が友人の歌をわざわざ「よみ人しらず」とする意味がないことがお分かりになるかと思います。


6.朝敵の歌を勅撰集に載せる際、その名を憚って「よみ人しらず」にした例があります。こちらと混同されているのではないかと拝察します。

https://kotobank.jp/word/平忠度-92220



聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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2018年12月12日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた漫画の企画を「おすそ分け」してシェアするこの連載企画。


※企画背景についてはコチラ→『このアイデア、作品にしませんか? 編集者・佐渡島庸平の企画のおすそ分け、始めます! 』


12月の企画テーマは、「感情が強く動いた瞬間」。ものすごく強い感情が生まれた(生まれたであろう)瞬間を見つけ、その感情を最も有効に伝えるための物語をいかにして紡いでいくか。「瞬間の感情を軸にする」というアプローチでのマンガのつくり方として、具体的な企画を4つ紹介しています。


「自分の死に様を自分で決断した」そのときの感情は?


3つ目となる今回の題材は、「ガンと診断された祖母が『一切の治療をしない』と決めた瞬間」。佐渡島さんの実体験から生まれたものです。


佐渡島さんが高校3年のとき、家族そろって食事をしていたときのこと。ガンで闘病中だったある親戚について、その治療や看病の話をしていました。家族全員が心配するなか、祖母ははこんな風に言いました。


「ガンぐらいで大騒ぎしないで、さっさと死ねばいいのにねぇ」


その場にいた佐渡島少年は、祖母が発した強い言葉に(なんてひどい言い方をするんだろう)とひっかかりを覚えたそうです。


しばらくして、祖母自身にガンが発覚。家族が知ったときにはすでにガンはかなり進行していて、治療の施しようがありませんでした。


そこで何かがつながりました。


(家族で食事をしていたあのとき、おばあちゃんはすでに自身のガンを知っていたのではないか。自身の体内でガンと共生していたのではないか.......?)


祖母は、最愛の伴侶であるおじいちゃんをガンで亡くしてもいたから。


では、ここからの企画ネタにつながる詳細は、佐渡島さんにバトンタッチします!


***


佐渡島:これは僕が実際に体験したことから、イメージが広がった企画です。


ガンになった祖母にとっての夫、つまり僕にとっての祖父は、30代でガンが見つかりました。そこから30年~40年間ガンと闘病しながら生きて、最期を迎えたんですね。


祖父の40年もの闘病生活を祖母がサポートする様子を僕も見ていましたが、祖母が祖父のことを愛していることは、伝わっていました。


祖母が亡くなって遺品を整理していたとき、祖父母が若かった頃のラブレターが出てきたんですよ。祖母が祖父へ贈った手紙の最後は、「あなたのよっこより」と毎回締められていた。孫の僕は当然ながら、祖母を「おばあちゃん」の一面しか知らないし、名前が「よしこ」であることも意識していませんでした。


だから、ラブレターを読んだとき急に、あの食卓での祖母の発言が思い出されたんですよ。


そして、あのとき祖母は、自分もガンであるともう知っていたのではないか。自分もガンだから、ガンで苦しむ親戚の人間に対して、あんな強い言葉を吐いたのではないかと思いました。


もしかすると、ガン宣告をされたときの祖母は、自分がガンになったことをうれしいと思ったかもしれない、とも。


すべてぼくの推測ですよ(笑)。


祖母が医師からガンと診断されたとき、すぐに治療すれば治る段階だったかもしれないと思うんです。でも祖母は治療せず、放っておくことを自ら選んだ。


なぜ放置したのか。祖父にとってガンというものは、妻である祖母よりも親密に接していた存在だったわけですよね。祖父は40年間もの間、体の中にいるガンと連れ添ったわけですから。


祖父をすごく愛していた祖母は、「夫がガンに対してどんな気持ちを持っていたか知りたい」と長年抱いていた可能性がある。そしていざ自分がガンだと分かったとき「愛した相手と同じ病気になれてうれしい」と、幸せだったかもしれません。


それで祖母は、「自分はこのガンという病で死のう」と決めた。


ロマンチックがすぎる想像かもしれないけど、ガンの治療をせずに、ガンを自分で飼うと決める人の話を、その決めた瞬間を描いてほしい。


「人がどういうふうにして死ぬか決める瞬間」ともいえるかもしれないですね。


体内のガン細胞を「わたしの体の中に黒い猫が住んでいる」などと喩えながら、ガンを飼いならすように付き合う女性の話として、ずっと興味がありました。


自分が高校生のときに起きたことだから、小説で描けたら面白いなと自分でも書こうとしたけれど、うまくいかなかったんですよね。編集者をしていても、こういう感情を描いてくれるといいなぁと思う作家が、自分の周りでは今のところいないんです。


***


漫画家の人は、自分の経験の中で、感情がすごく動いた瞬間を探してください。その瞬間の感情を過不足なく伝えようと思うと、前後の説明が必要になるはずです。その説明が、実は物語です。その瞬間を効果的に伝えるの必要ない情報は、どれだけ面白い情報でも余分となります。


まずは、自分の経験を深掘りしてみてください。


聞き手・構成/平山ゆりの @hirayuri &コルクラボライターチーム

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2018年12月04日

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた漫画の企画を「おすそ分け」してシェアするこの連載企画。


※企画背景についてはコチラ→『このアイデア、作品にしませんか? 編集者・佐渡島庸平の企画のおすそ分け、始めます! 』


12月の企画テーマは、「感情が強く動いた瞬間」。


ものすごく強い感情が生まれた(生まれたであろう)瞬間を見つけ、その感情を最も有効に伝えるための物語をいかにして紡いでいくか。「瞬間の感情を軸にする」というアプローチでのマンガのつくり方として、具体的な企画を4つ紹介しています。


今回は、テーマ「感情が強く動いた瞬間」の意味と、一つ目の企画である「レオナルド・ダ・ヴィンチが、自分の生き方を決めた瞬間」についてお届けします。


***


感情が強く揺れ動く瞬間へと物語を導く。


佐渡島:今月の企画の立て方のテーマは「感情が強く動いた瞬間」です。


これは、僕が物語の企画を立てる時に、最もよく使っている企画の立て方かもしれません。


例えば、漫画『スラムダンク』を読んでいて、ここぞって時にシュートがスパッと入るシーンを読んで、「ウォー!」って感動しますよね。何度読んでも涙が出たり。一方、実際の世界でも、マイケル・ジョーダンの劇的なシュートが決まる瞬間の映像を観ると同じ様に感動します。


つまりリアルで感動するシーンを漫画で描くことができれば、漫画でも同様の感動を生むことができるんじゃないかと思うんですね。


例えば、1998年の長野オリンピックでスキージャンプ男子団体が金メダルを獲りました。あの時の原田選手の大ジャンプには、多くの人が感動しましたよね。


その前のオリンピックでの原田選手の失敗もあり、「今回の原田は飛べるかなぁ…」とハラハラしながら僕らは見ています。そこに、あの逆転を呼び込む大ジャンプだから、「原田、スゲー!」という興奮に日本中が包まれました。


この時に感じた強い感情を漫画で描いたら、どうなるだろうと思って企画したのが、『宇宙兄弟』の作者である小山宙哉さんのデビュー作となった『ハルジャン』なんです。


選手が飛んだ瞬間の、選手や、それを見ている観客の中にどういう感情が生まれているのかを漫画で描いてみませんかと、小山さんに提案したことが始まりです。小山さんに、この瞬間の強い感情を漫画で描いてもらえたら、きっと原田の大ジャンプを見た時のような強い感情を読者に届けられると思ったんですね。


つまり「感情が強く動いた瞬間」というテーマは、絶対に強い感情が生まれたであろう瞬間の登場人物達の気持ちを想像し、それを漫画で表すということなんです。


そして、その瞬間を起点に物語の前後の構成を考えていき、全てのシーンは、その瞬間を描くための導線になっていきます。そして、目的地であるその瞬間に読み手の感情を頂点に持っていく。


このように「感情が強く動いた瞬間」から物語の企画を考えていくことは、心揺さぶる物語をつくるにあたり、とてもオススメしたい考え方です。


***


「ダ・ヴィンチが自分の生き方を決めた」そのときの感情は?


佐渡島:「感情が強く動いた瞬間」の1つ目は「レオナルド・ダ・ヴィンチが自分の生き方を決めた瞬間」です。


レオナルド・ダ・ヴィンチというと、画家として超有名ですが、芸術以外にも医療や化学など、様々な分野で優れた功績を残していて、超多才な人物として知られています。


今風に言うと、多動力が凄まじい人というイメージで、彼の研究家たちの間でも、ダ・ヴィンチは興味関心がすぐに移りかわる人だという意見が主流だったんですね。


ですが、実はそうではないと言っている研究家もいるんです。その研究家は、興味が移り変わって色々な分野に手を出したのではなくて、たった一つの事にしか興味がなくて、それを追求していくために、色んな分野を手を出さざるを得なかったと言っています。


そして、彼が追求し続けたのは、「全ての人を癒す微笑みとは何か?」ということ。


ダ・ヴィンチは当時から大天才として知られていて、様々な仕事を頼まれては、ほぼ全ての完成品を依頼主に納品して手放しているんです。でも、モナ・リザだけは、自分の手元から手放さずに、ずっと修正を続けているんですよ。つまり、他の創作物と重み付けが明らかに違うんです。


そこからダ・ヴィンチが行った全ての活動は、モナ・リザに全ての人を癒す微笑みを描くために行っていたと推測できるわけです。人間の体を解剖するのも、遠近法を学ぶのも、全ては自分が追い求める微笑みとは何かを導きだすために必要なものだったと。


この事実だけで、ダ・ヴィンチの伝記が書けそうなんですが、ここで一番気になるのは、「なぜ、ダヴィンチは最高の微笑みを、そこまでして描きたいと思ったのか?」ということです。


実際は緩やかに時間をかけながら、微笑みを描く事を自分の人生のテーマにしたかもしれませんが、これをフィクションとして劇的に捉え直してみると、すごく面白くなると思うんですよ。


そこで思いついたのが、日本の能面です。


世阿弥が能を作ったのが15世紀。そして、ダヴィンチが活躍したのは15世紀後半から16世紀前半。つまり、ちょうどダ・ヴィンチが生まれた頃に能が誕生したわけです。


そもそも、能面というものは、全ての感情を表現できてしまう表情です。面の角度や、演者の姿勢によって様々な感情を表現できてしまう。


その能面が、どういう経緯かはわからないんだけど、ダ・ヴィンチが住んでいるフィレンチェに辿り着きます。そして、ダヴィンチは能面を見て驚くわけです。


「何だ、この表情は…!こんなに奥行きが深い表情が、この世に存在するのか!?」と。


ダ・ヴィンチは「悔しい…!」と強く思います。「この表情を超える表情を、俺は作り出してみたい…」と。


そして、導きだした結論が、全てを包み込む微笑みです。


「全ての人を癒してしまうような。そんな微笑みを俺は描いてみたい…。それはどんな微笑みなんだろう?そして、それを表現できるように絵がもっと上手くなりたい!」。


そう強くダ・ヴィンチは思うわけですね。そして、それが、彼が自分の生き方を決めた瞬間です。


この瞬間のダ・ヴィンチの感情を漫画で表現できたらと思っているんですね。


この企画は長編漫画の企画としても成立するのではないかと思っています。能面との出会いを1話目で描いて、ダ・ヴィンチがどういう風にモナ・リザを題材に決めて、それを完成させようと挑戦していく筋書きです。また、モナ・リザは未完成のまま、ダ・ヴィンチは死んだと言われています。彼は、どこまで完成したと思って死んだのかという最後のシーンも良いシーンになるのではないかと思います。


ダ・ヴィンチが能面と出会うまでの過程や、なぜ能面に強く惹かれたのかといった背景は、作家さんの演出に委ねたいと思います。


ということで、こんな企画で、ダ・ヴィンチの生涯を追う漫画を書いてくれる作家さんとの出会いを待っています。是非、チャレンジしてくれると嬉しいです!


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今月の企画の立て方のテーマは「感情が強く動いた瞬間」で、全てのシーンをその瞬間への導線とすることで、感情が揺さぶられる物語の企画をつくるという話ですが、史実とフィクションを混ぜるというのも、企画を立てる時の方法の一つです。


それにより、物語にリアリティが増し、その時のダ・ヴィンチの表情や感情はどんなものだったんだろうかと、読者に強く惹かれる企画になります。


誰もが知っている偉人の知られざる感情を想像してみてください。自分が一番好きな偉人は誰ですか?その人の感情がもっとも動いた時はいつでしょう?


そのことを考えると、きっと自分らしい企画が生まれると思います。


僕の企画を描いて持ち込んでくれてももちろん嬉しいのですが、僕が好きなのは、その作家らしさのある作品です。ぜひ、自分の好きな偉人で、読み切りを描いてみてください。


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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2018年12月04日

「面白い漫画を描きたい。でも、ワクワクする物語のネタが、なかなか浮かばない…。」


そんな悩みを抱える方に、オススメな新連載企画をコルクBooksで始めます!


その名も、『編集者・佐渡島庸平の企画のおすそ分け』


『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』をはじめ、様々な漫画の編集者をしているコルク代表・佐渡島庸平さんが、長年温めてきた漫画の企画を、「おすそ分け」と称して、どんどんシェアしていく連載企画です。


もちろん、シェアしたネタを題材に漫画を描いていただいて全然OK。むしろ、描いてもらえたら超嬉しい…というこの企画。


※早速、第1回のおすそ分け企画をコチラにアップしました。→『ダ・ヴィンチの超多動力は、一つの願いを叶えるためだった…!?【感情が強く動いた瞬間を描いてみようシリーズ(1)】


今回の記事では、この新連載企画をやろうと思った理由や、企画の狙いを佐渡島さんに聞いてみました。


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ー そもそも、佐渡島さんが温めている企画ネタって、いっぱいあるんですか?

佐渡島:僕は、自分で企画を考えて、その企画にピッタリだと思える作家さんに「こういう物語の企画どうですか?」って投げかけるんど、まだピッタリだと思える作家さんに出会えていない企画が、僕の中に多く眠っているんだよ。


ー 今回、それらのネタが初公開となるわけですね。

佐渡島:そう。いつまでも自分ひとりで抱えていても、もったいないなぁと思って。


ー そう思われたきっかけは、なんですか?

佐渡島:『コルクブックス』の存在が大きいかな。コルクブックス って、誰かがアイデアを出したら、それをみんなでラリー(派生)していって、作品をブラッシュアップしていく場だよね。

※ラリーについて、詳しくはコチラ


ー はい。

佐渡島:そうすると、僕が温めているアイデアもどんどん解放して、色んな人にラリーをしてもらった方がいいんじゃないかと思ったんだよね。


ー 思いもしなかったものが加わる可能性がありますもんね。

佐渡島:それに、色んなラリーをもらうことで、僕自身の企画を考える力も高まると思うし。


ー なるほど。佐渡島さんにとっても、自分の成長につながるわけですね。

佐渡島:そうなんだよ。やらない理由がないなぁ…と思ったんだよね。


ー 確かに。

佐渡島:あとは、僕が物語の企画を立てる時の考え方も伝えていこうと思うので、企画の立て方を学びたい人にとっても参考になればいいと思ってる。


ー そっちの需要もすごくありそう…。

佐渡島:企画の立て方も何パターンかあるから、「今月は、このパターン」とテーマを決めて、その考え方で生まれた企画ネタを毎月4つくらい紹介していこうと思います。


ー ちなみに、佐渡島さんからおすそ分けしてもらったネタで作品を書いてみて、佐渡島さんに見てもらいたい場合は、どうしたらいいですか?

佐渡島:コルクブックスに投稿してもらうのは、もちろん大歓迎。でも、漫画を持ち込んでもらえる企画もいま考えているところ。


ー 直に見てもらえる場も、あるんですか!?

佐渡島:そう。来年から、週の中で曜日を決めて、半日くらい『カフェマメヒコ』にいるようにして、その時に漫画を持ち込んでくれたら、好きなだけ僕に相談できるっていう企画をやろうと考えているんだよね。


ー それは、面白い。カフェマメヒコが漫画家の集まる場所になるわけですね。

佐渡島:その通り。それに、僕が温めてきた企画で漫画をつくってくれたら、すごく嬉しいので、そういう人には飲み物を奢りたい(笑)


ー ちなみに、持ち込める漫画はどれくらいのレベルが求められますか?プロを目指している人でないとダメですか?

佐渡島:そんなことないよ!「今日から書き始めよう」という人も全然OK。漫画を描くことに興味がある人であれば、誰でも歓迎です。


ー 初心者でも可なんですね。これを機に漫画を描くことを始めてみようかな…。

佐渡島:この企画をきっかけに漫画を始める人が増えたら嬉しいね。公開していく企画ネタの中で、「これは描いてみたい」というものがあれば、是非気軽に描いてみてください。楽しみにしています!


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…ということで、新連載企画『編集者・佐渡島庸平の企画のおすそ分け』が始まります。


「オモシロい!」と思う企画ネタがあれば、是非、漫画化にチャレンジしてみてくださいね。今後のおすそ分け企画をお楽しみに!


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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